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連続小説「Sail boat and my life」第一話 潮風

第一話 潮風

私の名前はマイティー、通称マイクと呼ばれているが、親しき友はみな「ガッチ」と呼ぶ。特に意味はない。

私はラジオから流れるカントリーソングを耳にしながら、おそらく1800年代後期のものと思われるマホーガニーブラウンの古びたデスクに向かい、海図を広げて明日のセーリングのプランを練っているところだ。

いつも眺めている海図に定規を重ねコンパス角度を取り、ポイントをマークするだけなのだが、マークしたところの緯度経度を知ったからといって、特別何かがあるわけでもなく、ただの習慣みたいなものである。

最近は歳のせいか目が見えにくく、船のコンパスも海図のコンパスも目盛りが重なって見える。私だけは老眼にはならないと、友との酒の席ではいつも高をくくっていたものだが、どうもその勢いもなくなってきた。

ボストンヘラルド紙の良き顧客でもあった絵描きの親父は必ず、天気・生活・経済・スポーツの順に新聞を読んでいた。

私はレッドソックスとペイトリオッツの記事だけあれば後はどうでもよく、父親が一旦、新聞をテーブルに置くタイミングで、今朝は何か美味い物があるかいと聞き、なければベランダの観葉植物に水をあげた後、自宅に戻るのである。

親父は美味いものがある時は必ず、ウェリントン型の眼鏡を下げて必ずこう言うのだ。「ママ、金のない倅に餌を与えてやってくれ」と。すると母は必ずこう言うのだ。「玄関の前でお待ちなさい、今美味しい餌を持っていくからね」と。

まるで倅をペットのように言うのだ。私も負けずに「スジだらけのステーキは犬の牙でも厳しいぜ」と言いかえす。

そんな私がまさか親父のウェリントンを使う事になるとは、思いも寄らなかった。今では近くにないと不安さえ感じるのである。

親父はどうやら爺さんが双眼鏡入れに使っていたケースを、眼鏡ケースとして使っていた。私もなんの躊躇もなくそのまま使っている。

フレーム自体は爺さんが親父にプレゼントしてくれた英国製のものだそうだ。親父は何度も私に「今に必要になるからな、これはなによりも最高の財産だ。」と言って笑っていた。

お気に入りのベースボールキャップを少し浅くあみだにかぶり、ウェーリントンをかけて机に向かうと、甘い葉巻の香りがする。

窓を半分だけ開け潮風を感じながらの一服は、葉巻を吸うものでなければ理解できない心地よさなのだ。貧乏人の私は、パナマ産の太い葉巻を一日に数分ほどしか口にせず、一本の葉巻を何日もかけて吸うのである。

さて明日のセーリングだが、西に向かおうと東に向かおうと別段なんの問題もないのだが、近場でアンカーを打って魚釣りでもやってなどと考えながら、三日前から飲み残している炭酸の切れたソースペリエを口にし、葉巻と交互にやるのが何とも好きなのだ。

もちろん、冷たくて炭酸がしっかりしていることが最高なのは間違いないのだが。。。

続く

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