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連続小説「Sailboat and my life」第七話 思い出

かれこれ25年になろうとしている。ムーンリバーを聞くと従弟のことを思い出す。

彼らの結婚式の日に流れてたこの曲、私は何度も聞いているので、感動するほどではなかったが、なんとなく心地よく、何度聞いても飽きが来ない。なんとなく口ずさんでしまう曲なのだ。

従弟の結婚式に流れてたこの曲に、何かの思い出があるのだろうと何となく気が付いてはいたが、特別それを聞きただす気にもならなかった。

しかし今では私にとってこの曲は、とても大好きな曲となったのであった。

23年ほど前になるが、まだまだ新婚の気分の従弟夫婦、夫婦の幸せと絆が外れないようにと、海の見える通りにある金網に大きな鍵を付けた。

いつも仲の良いカップルだが、お互いの時間に関しては別々の物だった。ある朝、従弟はいつものようにサウスポートランドにあるポートエリザベスへ釣りに出かけた。

夏は比較的穏やかな風も、一度吹き出すと立ってる事もままならない程に吹きまくるのである。ここの海は難所でもあり、大きな灯台も立っている。

ポートランドのコマーシャルストリート近くのアイリッシュバーと、レストランSAPPOROという日本人が経営している寿司バーが彼らのお気に入りの場所だった。

家が近くだという事もあり、釣れた魚を持って行っては寿司屋の親父にさばいてもらい、刺身を食してビールをがぶ飲みするというのが、彼ら仲間内のスタイルだった。

いつもどおり寿司屋に集まり、二件目はアイリッシュバーに行き、また寿司屋で飲みなおすというのも彼らのスタイルだった。

従弟と仲良し仲間達は、寿司屋の親父の仕事が終わるころを目掛け、イスをかたずけ掃除も手伝い、そしてまた3~4人で飲むのである。

刺身はかなりのハイレベルで、オーナーの「ヨシ」はここボストン近郊の魚が、日本の築地に出荷されている事を自慢気に話していた。

仕事で訪れる日本からの客が来ると、その日に友人達がキャスコ湾で釣ったスズキなどを、手早く刺身にして食わせてくれるのである。

ある日のこと、従弟の奥さんが旦那を探しに寿司屋にやって来た。今朝早くにポートエリザベスに釣りに行って帰ってこないから、ここで飲んでるのかと思いやって来たのだ。

「ねえうちの旦那しらないかな?  今朝から釣りに行って帰ってこないのよ」

「いや~~今日はそもそも誰もきていないよ」と親父は言った。

「どんな時でも必ず電話はくれる旦那なの。何かあったのかしら?」

「ちょっと色々あたってみるから、ここでビールでも飲んでなよ」と、ヨシは言って会社関係や友人、その他いろいろ聞いてみたが誰も知らないと言う。結局その日は帰ってこなかった。

次の日、従妹の奥さんはあまりにも心配になって、再び寿司屋の仲間に相談しにやってきた。

まさか釣りで遭難したのか?あそこは波が高くなるからな。俺も何度か海に落とされた事がある。と仲間のティムが言った。とにかく明日の朝、ポートエリザベスの岸壁付近を捜しに行こう! 何か手掛かりがあるかもしれない。

それでも何もつかめなかったら警察に捜索願を出すことに決めた。

そして翌朝、ティムとヨシはポートエリザベスの灯台の右岸を歩き、釣りができそうなポイントを探した。

従弟の奥さんとティムの彼女のエルザは、左岸を歩き探すことにした。潮の流れがきついので、流されるとどこまで行くか分からないのだ。

突然、真下を見ていたティムが叫んだ。レッドソックスのキャップが見えると。それはヨシが先週レッドソックスの試合をフェンウェイまで見に行った時に従妹に貸したキャップだった。

間違いない、確かにあれは従弟が被っていたものだ。恐る恐る大きな岩を降りていくと人影が見えた。

続く

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