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連続小説「Sailboat and my life」第八話 再会

悲しいことには違いないが、なんとなく納得することができた。好きな釣りをやっていての事故だと思えば、悲しみは深くはならなかった。

従弟の口癖で、死んだら焼いて骨を大西洋に流してほしいと話していたので、希望通りキャスコ湾に流すことにした。

私の親族はそれぞれの信仰があって、キリストであることは間違いないが無宗教に近く、従弟も特に洗礼を受けているわけでもなく、深く信仰している宗教もなかった。教会に連れ出すことよりもフェンウェイパークに連れ出すことのほうが多かった。

そんなわけで、特別な葬儀もせず、友人と家族でお祈りをして葬儀的な儀式は終えた。

なんともふしだらにも思えるが従弟の遺言でもあるように、なにも悲しまずに寿司屋でみんなでワイワイやってほしいと言っていたことを奥さんのユキがつぶやくように言った。

ブルックローンの記念公園はポートランドの空港近くにあって見晴らしの良いところである。

その日は快晴で暑く、すぐにヨシの店に集まって"従弟をしのぶ会"をやろうと言うことになった。昼の営業をクローズして夜のオープン前にという事で、皆で夜の開店準備をした。椅子とテーブルのセッティング、調味料の量のチェックも行い、オープン準備を完璧に終えた。

宴は奥の部屋で、みんなで従弟のことを何度もコールして献杯した。

「コーナー!!コーナー!!コーナー!!」

仲良しだった水産関係のヤマさん、先生のハリー、トレーダーのエルザ、シェフのティム、貿易関連のキヨさん、そしてユキさんとコーナーの兄のケンと弟のイェール、そしてヨシと私の10人。

コーナーの母と父はここには来なかった。

ビールはアサヒのスーパードライがピッチャーで3個、ヨシが刺身を手早に10人分作ってくれて最高の宴がはじまった。

オープンに差支えのない様、汚さないことを心がけ、スタッフにいらぬ迷惑はかけぬようにしようとみんなで約束して、大騒ぎはするものの何となく寂しくもなり、酔った勢いで笑顔にもなり不思議な雰囲気の宴だった。

クローズの看板は出していたものの、外にまでもれる声と窓から見える宴の姿に、ドアをノックする客が数人いて、その度にヨシが応対していた。

夜のオープンは5時からなのだが、ヨシはスタッフには3時以降に入るように指示していたようだ。我々はスタッフが来る時間帯になっても、従弟との思い出写真を見ながら「 "一言" いっては、いっぱい飲む」を繰り返し、テンションは上がっていく一方だった。

その間も店の前を通り過ぎる人々は、不思議そうに店の中を覗いていた。

そして宴が少し収まった頃、誰かがドアをノックした。ノックと同時に中へ大声で呼びかけていたが、反応もない時間が数分あったようだ。そして偶然通りかかったヨシがドアをノックする二人に気がつき、いつものように陽気に声をかけた。

「観光ですか?夏はここは最高の場所ですよ!!もう少しで開店しますから、そこのベンチでお待ちになって下さい」と言い、さらに「どうぞ、どうぞ」と言いながらスーパードライをグラスに注いで渡そうとするヨシに、二人は困惑しながらこう言った。

「観光ではなく人を探しているんです、というよりも船を探してるんです。お寿司屋さんだったら、きっと漁師さんや造船所の方を知ってらっしゃるのではないか。と思い、ここまでやってきました。」

「何かわけがありそうですね。」お人好しで世話好きのヨシには、それが凄く大事なことだとすぐに察知した。

「まあ、まあ、中にお入りになってください」。そして、"this way please" と言いながら二人を招き入れた。

「あれ?そちら様は日本のお方ですか?と男性に日本語で尋ねると、二人そろって「そうです」と日本語で返ってきた。男性は八五郎さんといい、女性はハナさんと言った。ハナさんのお母さんは日本人だと言う。

「まあ、立ち話もなんですから、中で座ってお話を聞きましょう。ちょうど知り合いの葬儀の後の献杯を派手にやってまして。みんなにも紹介しますから。もしかしたら誰か知り合いなどもいるかもしれません。みんなにも聞いてもらいましょう。みんないい奴ですから、ご安心ください。」

そう言いながら、八五郎さんとハナさんを奥の部屋に案内するといきなり "驚く" 声が。

「あれ?ひょっとして、八五郎さんにハナさんじゃないですか?」

「え~~?ひょっとして以前、ニューベーリーポートでお会いしたマイクさんですか?」

「え~~なんだよ。あなた方は知り合いなのかい?」まさかの偶然に、驚きながらもヨシが尋ねた。

「いや~~知り合いじゃなくて、ニューベリーポートでたまたま知り合いのピザ屋さんを紹介したんだよ!」とマイクは言った。

「そうなんです。とっても美味しいピザ屋さんを紹介して頂いたんです。凄く美味しかったです、トマトが凄いんです、あんな美味しいピザは今まで食べたことないです。」と、ハナさんも興奮気味に続いた。

「それは良かった、ところでここへは何しに?夏休みですか?」と、さらにマイクが尋ね、そして更に続けた。

「ポートランド界隈でもここ"コマーシャルストリート"はシーズンになるととにかく凄く賑うんですよ。ねえヨシさん、そうだよね?この時期に、うんと稼ぐんだよね!」

「まあまあ、ぼちぼちですが、ジェイオイスターとか有名店は予約が取れない程ですよ。」とヨシは言った。

ハナさんは少しうらやましそうな顔をしながら、「そうなんですね~、実は私達、観光とかではなく"人"を探してるんですよ。人というよりは"船"を探してるんですよ。実は、お会いしたニューベリーポートでも、船を探しに行ってたんです。」

「そうだったんですか?探してる方のお名前は何というんですか?まあそれを聞いても何もお答えはできないかもですがね~~」と苦笑いをしながらマイクは尋ねた。

「たしか名前は "エドガーさん"だと聞いてますが、それも定かではないんです。どうやら私の父は船が好きだったらしく、友人にヨットの造船を頼んだそうなんですが、それがどこの造船所なのか?船の形などもわからず、恐らく、ヨットではないかと私が勝手に思っているだけなんです。若い頃の友人との写真がどれもヨットだから、たぶん間違いないと思うんです。祖父も船乗りで先祖代々が船乗りなんです。さらに父の友人にはヨットマンが多いと祖父から聞いてました。」

「父は親友であったエドガーさん?に船を作ることを頼んでいたらしく、祖父が父から聞いていたそうなんです。その話を昔に祖父から聞いた時に、たしかエドガーさん?と言っていたような気がしたんです。。。なんせ昔の話で、父はベトナムで戦死してますので確認もできないですし、もし船を作って頂けてたのなら、費用などもどうなっているのか祖父も心配になったらしく。。。」

「それで港町をまわっていらっしゃるのですね?でも昔のことだし、ハナさんがあまり気にしなくてむ良いのではないですか?」とマイクは言った。

「実は私もあまり気にもしていなかったのですが、二年ほど前の祖父が亡くなる直前に、"たしかお前の名前を船に付けてあるはずだ" と聞き、更に祖父は "出来るならば、その船を引き取りに行きなさい。費用が必要であればここの家を売れば、少しはたしになるはずだ"」と言って、その二日後に祖父は亡くなったんです。

続く

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