「エドガーさんをお探しなんですね?」
「そうなんです。エドガーさんです。でもひょっとしたらエドガーさんではないかもなんです。」
「えっ、それはどうしてですか?」とマイクはハナさんに尋ねた。
「私の祖父がなくなる時にかすれた声でそう言ったのですが、聞き違いかもしれないんです。」
「そうですか、、、わたしの爺さんでしたらエドヤーズと言ってそれこそ造船所をやっていたんですよ。それこそ古いヨットが造船所にありましたが、今じゃ兄が管理していてそこの造船所も売り払う予定なんですがね。」
「爺さんはもともとケープコッドで働いていたんですが、大戦の頃にメインに越してきたんですよ。」
「この辺には小さな造船所が多くありますから、このメイン州だけでも探すのは大変なことですよね。お爺さんの友人達に聞いてみることはできないんですか?」
「そもそも私の街には地元の方しかいなくて、祖父はどうやらどこからか越してきたようなんです。その辺のことを母や父に聞きたくても二人とも天に召されてしまいましたので、まったく手掛かりがないんです。」
「お父さんの友人達には聞かなかったのですか?」
「実はそれもベトナム戦争で同じ部隊にいて、同級生たちはみな戦死したんです。ですから全く手掛かりがないんです。」
「それは困りましたね、もしかしたら何らかの手掛かりがあるかもしれないので、ひとまず明日の朝に兄の造船所にでも行って聞いてみますか?」マイクは言った。
「ところで他にどこかで聞いてみたりはしたんですか?」
「一件だけ行って聞きました。母がマサチューセッツのロックポートあたりに居たそうなので、父もきっと近くに居たのではないかと思い、近辺の造船所で聞きましたが全く分からないと言われました。」
「世代が変わっていて、新しいオーナーや若い従業員は当時のことなど全く分からないのは当たり前ですよね。ところでハナさんはご兄弟は?」
「私ですか? 私は一人です。母は私が1歳の頃に亡くなっていて、母の事はよく分からないんです。父が軍にいたため祖父と祖母に育ててもらったんです。そんなこともあり、全く手掛かりがないんです。」
「こんなこと言っては申し訳ないのですが、もういっそのこと船はあきらめてはどうですか?ハナさんは船に乗ったりするんですか?」
「いえいえ私は船には弱くて酔ってしまいますし欲しい訳ではないのですが、実はわたし末期のガンで、あと半年生きれるかどうかなんです。ですからどうしても私が生きている間に船を見つけて誰かに譲りたいのです。」
「そうでしたか、それは八五郎さんも責任重大ですね」
「いやー、実は私も末期の肺がんなんです。ハナよりも長くないかもしれないし、明日の事も分からないんです。ですからなんとしてでも早々に船を見つけて、誰かにその船に乗ってもらいたいんです。」
そこにいた皆は驚きを隠せなかった。ヨシはスーパードライのピッチャーにそのまま口を付けて飲んでしまうほど驚いていた。
「マイティー、とにかく明日の朝、お兄さんのジョンのところにお二人をお連れしてはどうだろうか」と、ヨシは言った。「ところで今日のお泊りはどこなんですか?」
「実はまだ決めてないんです。ベッドが広いところであればどこでも良いのですがどこか手頃な宿なんてありますか?」
「そうですね、友人がモーテルをやってますし、あることはあるのですが、今日はうちに泊まってはいかがですか?すぐそこですよ。犬が一匹と太った酔っ払いがひとり今日泊るのですが、どうですか?」
「その酔っぱらいは私です!」ハリー先生が言った。
「私のところでもいいけど今日は飲んでしまったのでヨシのところに泊めてもらうことにしたんですよ。宜しければどうですか?酔っ払いは苦手ですか?」とハリー先生は笑いながら言った。
八五郎さんもハナも涙した。。。
「見知らぬものがこんな旅先でお声をかけてもらい、さらに宿まで提供していただけるなんて、嬉しすぎて涙が止まりません。本当にあまえてよろしいんでしょうか?」
「もちろんです!旅は道連れ世は情けっていうじゃないですか。ご遠慮なさらずにどうぞ甘えて下さいやし」
「ところで八五郎さんはどちらの出身なんですか?」
「私ですか?私は神田の生まれです。訳あって流れ流れて本当に流れて来たところ、ハナに拾われたんです。本当の流れもんでござんすよ!!」
「え~~?そうなんですか?」
「そうなんですよ。実際はハナのお爺さんが海岸で倒れている私を発見してくれて、ハナが看病してくれたんです。」
「えっ、それってケープコッド沖で難破した船の話ですか?確か15年ほど前の話ではなかったでしょうか?」
「そうです、霧がすごくて船が座礁してしまい、救命ボートに乗り移ったのですが横波を食らい転覆、頭を岩にぶっつけて気絶、気が付くとハナがベッドの横にいたんです。」
「八五郎さん、あんたは強運の持ち主だね!ところでどうしてこんな外れまで来たんだい?」
「実はロックポートの造船所で、ポートランドに行けば結構有名な寿司レストランがあって、そこにはウニ屋さんや魚屋さんが多く出入りしているから、きっとそこに行けば船関係の方々に合えるかもしれないと聞いたんですよ。」
「そうですか、ボストンではなくてですか?もっと都会のほうが有名店在りますよ。」
「いえいえ、大き過ぎるすぎるとかえって話が中々伝わらないと言うか相手にもされないと思い、そして地場のほうが地元の漁師さんに話が聞けると思ったんですよ。」
続く